第6回 Wein Markstein さん

SLマシニマ映画祭

 先月2月の7日から28日にかけて、「SLマシニマ映画祭 2015冬」が開催されました。既にSL日本人コミュニティでは既に恒例のイベントとなったSLマシニマ映画祭。今回お話を伺うのは、その主催者であるWein Marksteinさんです。

 本来であればイベント前にお話をうかがってイベントの宣伝としたかったのですが、こちらが申し込むのが遅くなったこともあり、また会期中はやはりお忙しくお時間がとれなかったため終了後のインタビューとなってしまいました。今回の記事でマシニマ*1に興味をもたれた方は、ぜひ次回、2015夏のマシニマ祭をお楽しみに。

Wein Markstein さんインタビュー

マシニマ祭について

Haruka McMahon: ではまず、簡単な自己紹介をお願いいたします。

Wein Markstein: はい。SLに入ったきっかけはノートに書いたとおりです。SLをもう7年近くやってますが、現在は、マシニマ好きな仲間と「映画館組合」という非営利団体を作って、映画館仲間でSLの中で作られたマシニマを上映でご紹介しながら、マシニマクリエイターさんの応援活動をしています。*22011年から年に2回、SLマシニマ映画祭を開催しています。


SLマシニマ映画祭 2015冬が開催された会場。周囲には、これまでの映画祭で上映された作品のパネルが展示されています。

Haruka McMahon: これだけ大きなイベントを年2回継続的にやってらっしゃるだけでも大変だと思うんですが、そもそも当初は年4回という構想だったということですね。

Wein Markstein: そうなんです。春夏秋冬、3ヶ月に1回のペースでできるのでは?と当初甘く考えてましたが、やはり実際にやってみると、事前調整などで最低3ヶ月はかかってしまいまして。今のような年2回のペースが、一番無理がない感じで落ち着いてきてますね。

Haruka McMahon: なるほどー。

Wein Markstein: ということで、冬と夏、2月と8月ですね。

Haruka McMahon: 3ヶ月という準備期間もすごいですが……企画を進めていく中で、毎回これは苦労する、みたいなところはありますか?

Wein Markstein: そうですね……参加される作品は毎回、10~12作品を目標にしてます。で、5作品くらいはすぐに集まって来ますのでそこは苦労しないのですが、残り5~7作品はいろいろ……人からきいてとか、SNSを見てとか、YouTubeを日々眺めてとか、地道な発掘になるので、いつも長期戦です。下手をすると、映画祭の3週間前になっても10作品集まってない、ということもままあります。
 また、数は集まっても、音楽著作権の問題にひっかかっていたりとかが後で判明することもあって、監督さんに再度確認して、やっぱり見送り……ということもしばしばあります。

Haruka McMahon: 後から解るっていうのは大変ですね。

Wein Markstein: ある程度は、映画館の上映機にかけてみると警告表示が出るので解りますが。

Haruka McMahon: え、それは上映機のシステムとしてそういう機能があるんですか?著作権者検知みたいな……

Wein Markstein: そんな大したシステムではありません。YouTubeのいろいろな制限のかからないシンプルなモードで再生するだけです。それだけでも、いろいろなbotが走っていて、警告を出してくるのです。主に、音楽業界ですね。

Haruka McMahon: ああ、なるほど。YouTube上で警告が出るので上映機でもわかるって感じですか。

Wein Markstein: bot警告されるものだけですね。後は、人間が見て判断することもあります。といっても、映画館組合は著作権取締団体ではないので、それだけを目を光らせているわけではないですが。いい作品はやっぱり何とか多くの方に見ていただきたいので、できるだけたくさんの方にご紹介する方向で上映による応援をしています。

Haruka McMahon: なるほどー、ホントに日々尽力されているという感じですね。

Wein Markstein: いえいえ、実に地味な活動です。希望を言えば、このSLの中にもっとたくさんのTV局*3やラジオ*4、雑誌などのメディアが出てきてくださって、そういう方面の力を借りながら、もっと多方面にSLマシニマの面白さをPRしていければと思っています。

Haruka McMahon: もともとリアルでも映画がお好きだったんですか?

Wein Markstein: どちらかというと、映画の世界には遠いところにいたと思います。映画を見るのもおつきあいで友人に誘われて見るくらいでしたので。自分から見だすようになったのは、このSLでこういった活動をたまたまするようになったからかもしれません。今では少しウンチクできるようになりましたw

Haruka McMahon: おーw

Wein Markstein: やはり、作ってみてはじめてその良さがわかり始めるものですね。

Haruka McMahon: 確かに、それはありますね。

Wein Markstein: こうした映画祭もとてもいろいろ教えられることが多くて、目が肥えます。じゃあすぐにそうできるかというとできませんが、ああ、なるほど、こういう表現もあるのかと、毎回目からウロコの瞬間が一杯あります。そこでまた、RLのDVDを見だす、ということもあります。

Haruka McMahon: おおー。

Wein Markstein: なんか、おっきいこといっちゃってすみません。だから、全然、映画の専門家でもなんでもないんです。ただのマシニマ好き、映画好きです。

Haruka McMahon: なるほどー。以前インタビューしたたかし監督*5とは対照的ですね。監督は、マシニマを撮るためにSLに来られたとおっしゃってましたが。

Wein Markstein: ああ、そうかもしれませんね。たかし監督はSLに来られてすぐ映画館に来られました。そして、これまでの上映作品もにととおりご紹介して。いっときは映画館組合のメンバーにもなっていただいて、「SLマシニマ映画祭2013夏」ではいっしょに準備もされたんですよ。

映画館から広がる経済社会

Haruka McMahon: Weinさんは確か、SLの報道を見て、RLのお仕事を生かしてサイドビジネスに出来ないかというのがきっかけでSLをはじめたと伺いましたが。

Wein Markstein: そうですね。仮想通貨を流通させてるネット社会があるというのをたしか日経BPで見て、しかもアバターでできると聞いて、何かちょっとした副業ができるかなとこの世界に来ました。その時には、マシニマとか映像製作とかは全然視野にありませんでしたけど。むしろ、コンサルタント的な商売を考えてました。

Haruka McMahon: 差し支えなければ、リアルもそんな感じのお仕事だったんですか?

Wein Markstein: 結構、そんな感じですね。

Haruka McMahon: なるほどー。そうするとSLに来て全く違う方向に志向が向いちゃった感じですねw

Wein Markstein: んーー、そうでもないと思います。SLもそれなりにプロの方が多くいらしてて、日中のRLでは決してお会いできないような方々とSLで会えますので、とてもいい世界だと思っています。

Haruka McMahon: なるほどー。出会いといえば、デジアカ*6マシニマクラスでもご一緒しましたが、あそこでもいろいろな出会いがありましたね。

Wein Markstein: そうでしたね。あのクラスでの出会いは今でもとても貴重でした。はるかさんにもお会いしてましたし、まったくご縁です。何より、マシニマに興味を抱かせてくれたたくさんの仲間に出会えた場所でしたね。あれがなかったら、今の活動もなかったと思います。いい卒業作品が本当にたくさんありました。

Haruka McMahon: ですねー。で、そのクラスでの、Takeshiさん*7との出会いが、この映画祭の企画につながったと。

Wein Markstein: 彼の存在はとても大きかったと思います。マシニマ製作者としての才能もさることながら、今でも使っている上映機とスクリーンの設備を作ってくれたのも彼でしたので、それがなければ今のあちこちの映画館も建っていなかったと思います。

Haruka McMahon: おおー。

Wein Markstein: マシニマ製作者と観客の両方の視点で上映機を開発してくれたので、いい感じで映画館にフィットしました。私はただ、映画館でたくさんの優れた作品を上映・紹介したいの一心だけでしたので、彼の技術がなければこうした映画祭も出来なかったと思います。

Haruka McMahon: 確かに、Takeshiさんとは私もデジアカマシニマクラスの卒業制作でご一緒*8しましたが、技術力と企画の実行力が図抜けてて、映画の中でも外でも自然とリーダー的な立場になっておられました。

Wein Markstein: わかります。もしかしたら、Takeshiさんもマシニマ映画祭を主催できるだけの力があったのだと思います。私の企画を前面に立ててくださって、背中を押してくださいましたね。裏方に徹してくれたのだと思います。今では映画館が増えて、私の映画館にも時々マシニマ監督のタマゴさんたちが勉強がてらちょくちょく来られますが、そのようになったのは、彼の存在も大きいと思います。マシニマに触れる環境が増えましたのでね。

Haruka McMahon: なるほどー。

Wein Markstein: で、実際の作者ご本人とスクリーンの前で会話しながら製作ポイント(に関する意見)を交わせるわけですから、YouTubeをPCで見るのとはまた違って、マシニマ監督のタマゴたちには必要な環境を整えてくれたわけです。

Haruka McMahon: 確かに、離れたところにいる人がリアルタイムで会話しながら同じ映像を見られるって言うのはセカンドライフならではですね。ニコニコ動画の擬似同期でもかなわない。

Wein Markstein: そう思いますね。同じ動画をほぼラグなく同時に見れるというのはネットではできないことです。SLのように同じ空間で見ないとできませんね。

Haruka McMahon: そういう意味でも、Weinさんの映画館組合が果たしている役割は大きいですね。

Wein Markstein: 役割があるとすれば、見たいときに映画館がそこにあるという環境を提供していることでしょうね。とにかくあそこ行けばいい的な。映画祭も、そのうちそうなっていってくれればと思います。ああ、そういえばもう2月だな、8月だな、映画祭だな、みたいな。どこかで生活の一部にフィットしてもらえたら嬉しいですね。とりあえず映画館、とりあえずマシニマ、でいいです

Haruka McMahon: はい。

Wein Markstein: 映画館組合は確かに非営利にこだわってますが、こうしたPR活動が結果的にYouTubeのヒット数を上げて、それなりの広告収入がクリエイターに入って、また製作の資金となって次のいい作品ができていく。それをまた映画館組合で紹介して、映像文化をいい感じでぐるぐるまわしていく、それでいいと思っています。組合の資金を使わなくても外部の資金で十分支援できる、そういう理念で非営利にこだわっています。

Haruka McMahon: なるほどー。

Wein Markstein: ええ、マシニマ製作も自動車産業と似たところがあって、ほんとに裾野が広いんです。製作者が潤えば、そのお金がマシニマにかかわる髪の毛屋さん、洋服屋さん、小物、建物、植物、動物、自動車、テクスチャ、サウンド、アニメーション、放送、出版、ありとあらゆるものが潤っていきますので、みんなWIN-WINで理想的なマシニマブームを起こせると考えています。お金は外から持ってくればいい。SLも活性化するのではないでしょうか。

Haruka McMahon: それは嬉しいですね。

Wein Markstein: モノが仮想通貨でちゃんと売買できる経済社会ができあがる。

Haruka McMahon: ぜひそういう方向に持っていきたいですね。

Wein Markstein: ですねー。SL経済が発達しないばかりに、せっかく作ったものが、売れずにプレゼントで、ただで流通するなんてかわいそうすぎます。

Haruka McMahon: 本日は、長い時間ありがとうございました。最後になりますが、読者の皆さんにメッセージや宣伝などありましたらどうぞ。

Wein Markstein: そうですね、SLマシニマ映画祭の今後ということで、いつも聞かれることですが、良い作品、それを静かに味わえる良い映画館がある限り、映画祭をやめる理由がぜんぜん思い浮かびません。むしろ、恒例行事的存在となってみなさんのSL生活の中に、いい感じで受け入れられていくことに意味があると思っています。気負わず、ひとつでも多くの作品を、身の丈でご紹介していける存在で有り続けたいと、映画館組合は願っています。

Haruka McMahon: ありがとうございました。

インタビューを終えて

 今もセカンドライフで活動している人の多くは、インタビュアーも含めて良くも悪くもオタクノリというか、自分や仲間内での楽しさを志向する人が多く、それはそれで仮想世界を動かす大きな原動力となっていると思うのですが、Weinさんは趣味を追及しつつも、それを取り巻く仮想世界の経済や社会への寄与という視点を持った方だなあというのが、今回インタビューをさせて頂いての印象でした。

 なお、毎回インタビューでは事前に簡単な質問をさせて頂いているのですが、Weinさんからはその回答という形で、非常に熱のこもった、まとまった文章をいただきましたので、そのまま掲載させて頂きます。(写真はいずれもWeinさんによる)

Weinさんからの事前質問回答

SLをはじめたきっかけ 2008

日経BP誌にセカンドライフの紹介があり、仮想通貨を流通させて自由にビジネスを展開しているという記事を読んで、何かRLの仕事を活かしたサイドビジネスをやってみようかと思ったのがきっかけでした。

デジアカ4期マシニマクラスへの参加 2009

2008年-2009年当時はSLのビュワーに動画の録画機能があって、いろいろな人がその動画を楽しんでいました。また、モヴィエという民間の動画アップサイトがあり、URLをそのまま土地に貼れば土地再生で見られるような支援もありました(2012年にサービス終了)。 でも、どうしたら、そんな面白い動画録画・再生ができるのか、まったく知識がなかったところへ、デジタル・アカデメイアというSL内の学校が無料で教えてくれるという情報を聞き、さっそくマシニマクラスに入学しました。 そのクラスの卒業作品で処女作「月読の指輪」を製作し、クラスのみんなで総務省のC特区(サイバー特区)のコンテストに出すなどしてマシニマの面白さに惹かれていきました。

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Takeshi Schnyderさんとの出会い

卒業作品の中には、Masaさん・LEEChanさんカップルの「少年と森の少女」、Aisshaさんの「PVを作るのだ」、Takeshi Schnyderさんがリーダーのグループ作品「デジタルフォース」など優れた作品がたくさんあり、卒業生同士の親交がはじまりました。中でも「デジタルフォース」のTakeshiさんとは、これらの優れた作品を眠らせるのはもったいない、映画祭でもやりましょうかと意気統合して、Takeshiさんがスクリーンと映写機の開発を、私が映画祭の企画と映画館建設を分担して、2010年8月のSL24で、いまの映画祭の前進である「SLマシニマ映画祭2010」を 開催することになりました。

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SLマシニマ映画祭2010

この映画祭はSL日本人コミュの夏祭りである、SL24の催しのひとつとしてやったものですから、開催期間も8月7日~8日と、たった2日間の短いものでしたが、映画館や映画祭自体がもの珍しかったこともあり、多い時には両日とも、ひとつの作品を30人の観客が、ワイワイ、チャット会話しながら同時に観るという、今のSLでは考えられないほどの盛況ぶりでした。 􀀂

映画館組合設立2011

この映画祭の成功がきっかけとなり、2010年10月にマシニマ上映に関心の高いSIMオーナー・SIM管理者が集まり、映画館組合発起人会が立ち上がり、その翌年1月に7つの映画館、10人のメンバーからなる映画館組合ができました。その7つの映画館の中には、いまはなくなってしまった別府SIMの笹川原キネマ館、ジャパンドリームケンジンSIMの四番街キネマもありました。

映画祭と東日本大震災

当初、映画館組合ではマシニマ映画祭を春夏秋冬の年4回開催する計画でいました。そして、実際に1回目の「マシニマ映画祭2011春」を2011年2月12日~3月12日で開催しました。そうしたところ、3月のSLの土地環境の仕様変更でストリーミング音声が土地区画外にも漏れるようになったため、映画館上映を急遽休止せざるを得なくなり、開催期間のほぼ最終日の3月11日にはあの東日本大震災が発生し、映画祭の中止は決定的となりました。 しかしながら、震災で日本全国が娯楽自粛のムードになっていく中、自分たちが萎縮してどうなる、被災地に自分たちの応援の声を映像でとどけることも映画館組合の大切な役割のひとつではないかということになり、エントリーPVのエンドに被災地応援メッセージをいれるとともに、次回「マシニマ映画祭2011夏」の開催を早々と決定しました。開催ペースは冬2月と夏8月の年2回にはなりましたが、映画館組合の震災復興応援の姿勢は震災4年後のいまも変わりません。

SLマシニマ映画祭の今後

いつも聞かれることですが、良い作品、それを静かに味わえる良い映画館がある限り、映画祭をやめる理由はありません。むしろ継続して恒例行事的存在となってみなさんに受け入れられていくことに意味があると思っています。気負わず、ひとつでも多くの作品を、身の丈でご紹介していける存在で有り続けたいと、映画館組合は願っています。

*1:第3回インタビュー注1参照

*2:仮想空間の中で、Web上の動画配信URLを指定するとスクリーン上にそれを表示し、居合わせたアバターがそれを見ることができる。セカンドライフではその機能を利用して、映画館や自宅用テレビなどのシステムが多く公開されており、ここで言及されている「映画館」もそれらの中の一つ。

*3:仮想空間内の様子をUStreamニコニコ生放送などを利用してリアルタイム配信している。

*4:ネットラジオの音声を仮想空間内で流せるため、イベントの様子などをSL内外同時に配信しているDJが多い。

*5:第3回

*6:SL内に設置された日本人ユーザー向け学校「デジタル・アカデメイア」の通称。マシニマ製作講座の他、ものづくり講座、写真講座、音楽講座、英会話講座などさまざまな授業が仮想空間内で行われた。

*7:Takeshi Schnyder さん。現在もバー経営、DJなど各方面で活動中。

*8:https://www.youtube.com/watch?v=lwJs31r7jKo